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水野南北 著 「修身実験録 一名・出世の直道」を読む その38 修身実験録&意訳(増補)

人天命にあらずして死するものあり。寝起の時を定めず、食事を程よくせず、働を過ごし、又遊びに過ぐる時は、病氣を生じ、常命を保つこと能はずして死すと、孔子家語といふ書に見えたり。

 

いま人ありて隋候の珠といふ重寶(宝)なる珠にて、千仭(一仭=七尺)ほど離るる處に居る雀を弾かば、世界の笑ひものとならん。何故に人が笑ふぞといふに、僅かの雀をとるとて、重寶の珠を捨つるが故なり。それ人の生命は、此の珠より貴きこと幾倍なるかを知らず。これを麁(粗)末に取り扱ふものは、この譬(例え)のごとしと、荘子に見えたり。

 

君子食すれども飽くまで食せず。平生安楽ばかりを求めず。仕事は敏(と)くして言葉と慎み、学者に就て善悪を正すを学問好の人といふ。又飽くまで食ひて終日何事も思はぬ人は困り者なりと、論語に見えたり。

 

飲食を好むものは人これを賤む。何故ぞとならば、その旨きに乗じて大食し、大事の身を失ふに至るが故なり。若し飲食の度と失はざれば、口腹の欲も尺寸の皮肉ばかりにはあらで。命をつなぐ良薬なりと、孟子に見えたり。

 

三慾は、食慾、睡慾、色慾なり。この三慾の中、食慾を根本とす。飽くまで食すれば心くらくなりて睡(眠)ることおほし。又色情も起るなり。ただ三二分の食を吃すれば氣候したがひて暢(の)ぶ。それ人に死を語れば、これを畏れざるものなし。然れどもその日夜なすことを見れば、不養生にて半分は死を取るの道なりと、張文階は云へり。

 

人皆眠臥を以て晏息(あんそく)とし、飲食は體を養ふ為なりと思へり。眠臥を嗜むの悪きを知らざるが故なり。禅家にも之を以て六慾の首(はじめ)とせり。臥すことを嗜めば神氣を損す。飲食を過ごせば氣孔塞がり上發すること能わずして生をそこなふ。君子夙(つと)に興(お)き夜(よは)に寝(い)ね。餐を淡(うす)くし食を少なくして常に脾胃に満たしめざれば、自然と神氣のめぐりよくなるを以て、養生の大要となすと、推蓬寝語に見えたり。

 

穀気元気に勝てば、その人肥て壽ならず。元氣穀氣に勝てば、その人痩て壽なり。性を養ふの術、常に穀氣を少なくするに在り。穀氣少なければ病生ぜずと。楊泉物理に見えたり。

 

飢て食ひ渇して飲むの類は、これ人と禽獣と同じ。親あり義あるの倫は禽獣と異なるなり。今の人多く飢て食ひ渇して飲む事のみを存して、親義を存せず。是れ禽獣と同じき人たるを免れず、と朱子は言へり。