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水野南北 著 「修身実験録 一名・出世の直道」を読む その20 修身実験録&意訳(問答5)

 問て曰く、

予は若年の時より運開けて身安かりしが、近年にいたりては、作る事爲す事一として凶ならざるはなし。これいかなる道理にして如何せば可ならん。

 

答て曰く、

汝若年より福満ちて、心増長したるが故に、天より自然と欠きたまふなり。自然と欠くるに任せおくときは、危きことおほくして、窮すること長し、若かず早くみづからこれを欠かんには、おのれよりこれを欠くときは安きこと多くして、満つること早し。余つらつら汝が相を観るに、汝元来財宝ある人にあらず。若年の時の開運は、みな汝が稼ぎ出しし福禄なり。しかるにその稼ぎ出しし福禄のために、その本を忘れて奢り高ぶる心の生じたる故に、果して此の難あり。早く其の本の貧賤なりし心に立ちかへるべし。その本を忘るるものは、其の末を失ひ、その末を慮はかるものは、その本を思ふ。その本を思ふものは高ぶることなし。高ぶらざれば落つることなし。されば福者にして貧窮を思ふものは、みづから仁を知て人を使ふこと恰も名将の士卒を使ふがごとく、号令よく行はれて、家運おとろふること無し。富を知るを貧の本とし、貧を知るを富の本とす。萬物其の本を顧みば、みな悉く貧なり。君といへども初めより威福備はるにあらず。衆人来り服して、君を仰ぎ尊むが故に、威も福もみなこれより生ぜり。是を以て明君は上下の隔てを破りて、飲食かならず臣下とこれを同ふしたまふ。君徳の長久なる所以なり。今汝も日々の食事を手代番頭と同うし、且つ手代番頭には、三度の外に食物を與ふることありとも、自分は之を食はざれ。斯くの如くすること三年にして、以前の福有に立ち返らざれば再び来りて余が舌を抜き去れ。