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水野南北 著 「修身実験録 一名・出世の直道」を読む その37 修身実験録&意訳(問答22)

問て曰く、

われ家業を種々に改め易ふるといへども、つひに榮(栄)ゆることなし。これその業の予に相應(応)せざるがゆゑならん。請ふわれに適當(当)の業を教へたまへ。

 

答て曰く、

これ業が汝に相應せざるにあらず。汝が業に精錬せざるがゆゑなり。いづれの業にても数年一藝(芸)にのみ神魂を凝らせば、かならずその道に精(くわ)しくなるものなり。その道に精しくなりて、繁榮せざるものはあらず。今汝は家業をしばしば易ふるがゆゑに、その藝に疎かなり。疎かなるが故に、盛なること能はざるは天の理なり。たとへば蟇(ひきがへる)を籠にいれたるがごとし。蟇は十方に目あるがゆゑに、容易く出らるべしと思ひて、前に進めども出られず。後に退けども出られず。左右に駆けまはれども出られず。是におひて気苛ち心進(そそ)りて足掻けば足掻くほど精魂つきて、みづから斃(たふ)るるの外なし。若し蟇を箱に入れて、箱の一方にかすかなる穴を穿たば、その穴より出でんと思ひて心魂をこらし精力をつくすゆゑに、終には出づることを得べし。虫だにかくのごとし。況や人として一方にのみ心を凝(こら)すこと、金鐵も貫くがごとくならば、諸事ならずといふことなし。軍にありて敵に十方より取り囲まれんとき、十方にあたり戦はば、気減り身疲れてかならず敵の擒(とりこ)となりぬべし。其をもし一方にのみ必死の力をふるひて、一條の血路を切り開かば、たとひ百萬騎の敵中にありとも、などか出づることのならざらん。故に一方を貫かざるものは世にありて益なく、死して人に知られず。これを犬死とは云ふぞかし。汝犬死を心外なりとおもはば、一業に必死となりて勉強すべし。かならず発達すること請合ひなり