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水野南北 著 「修身実験録 一名・出世の直道」を読む その22 修身実験録&意訳(問答7)

問て曰く、

人の食に於けるは最上の楽みなり。今先生の説に随(したが)ひて食べたき物をも食べ得ずば、生きて生きたる甲斐なきに非ずや。

 

答て曰く、

人の楽みに於ける数限りなけれども、官員は忠誠を盡して高官に進まんことを楽み、農夫は耕作を勉めて田禄を殖さんことを楽み、職工はその工を研(みが)きてその術の萬人に勝れんことを楽み、商売はその業を励みて家門の繁栄せんことを楽む。是等をこそ人間最上の楽みとは云ふべけれ。かかる楽みを楽まずして、最も下等なる飲食を楽むは、是の人必ず下等の人なるべし。かかる下等の人には、天よりそれ相応の貧賤の困(くるし)みを與へ給ふ。是れ謂はゆる自業自得の道理なり。夫れ口は雪隠の入口なり。若し余計に食を貪ぼる者は、これを雪隠に落すに同じ。今一椀の飯を糞中に落し看よ。いかほど慎みあしき人なりとも、これを爲すに忍びざるべし。この理を以て知れ。人の美食を楽み貪ぼるは、その冥加に尽きて大いに命数を損じ耗(へ)らすことを。貴人富家に長命なくして、却って貧者に長命多きは、まさしくこの故によるなるべし。