水野南北 著 「修身実験録 一名・出世の直道」を読む その36 修身実験録&意訳(問答21)
問て曰く、
心の慎みもなくして、勝手に吝嗇をはたらくといへども、次第に福有の身となるものあり。されば人の禍福は、あながちに慎みばかりにも因らぬものにや。
答て曰く、
これ吝嗇よりして食を減じたれども、その食べたきものも食べずして預けおきたる所の食物、おのづから天地に延びひろごり、一粒萬倍となりて己れに運(めぐ)り来れるものなるべし。また家族どもへ食を與(与)ふることを惜みて、減食せしむるは、大いにわろしといへども、然れどもまた家族その人々の徳を天地に延ばしむるゆゑに、その吝嗇は他より悪しく言ひはやされながら、思はず知らずに、徳を冥々の中に積みて、次第に繁昌するに至りしものなるべし。