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水野南北 著 「修身実験録 一名・出世の直道」を読む その19 修身実験録&意訳(問答4)

問て曰く、

予は大望あるが故に、常に美味酒肉を喫して元気を培養し、時至り運開けなば、名を天下に轟かさんとす。しかるを若し先生の説きたまふごとく、粗食小食をしたらんには、元気おとろへ身体よわりて、かならず大事を成しがたからん。この事非なるべしやいなやと。

 

答て曰く、

汝のいはゆる元気とは、人の天より受け得し一元気、孟子の謂はゆる浩然の気にて、おのづから至大至剛なるものなり。この気は義を以て養ふべきものにて食を以て強くすべきものにあらず。酒を豪飲し肉を暴食して培養する気は、汚濁の気にてまさかの時には少しも役に立つものにあらず。汝かかる汚濁の気を養ひて開運をはからば、仮令立身出世すとも固より無理非道の発達なるがゆゑに、決して長久することなく、後かへりて辱めを増さん。真実の立身出世は、かかる所にあらずして、己れを慎むところにあり。汝もし真実に立身出世を望まば、ただすべからく心を改めて己を慎むべし。その慎み十人に勝ぐるれば、十人に勝れたる立身あり。その慎み百人に勝るれば、百人に勝れたる出世あり。その慎み千万人に勝ぐるれば、千万人に勝れたる発達あるべし。それ食は人の天より受け得たる秩禄にして性命の根本なれば、福といふ福、禄といふ禄、寿といふ寿の君なり主なり。一切の福一切の禄一切の寿は、みな食の臣なり僕なり。およそ臣僕の進退は、君主の位格によりて定まるは当然の事なれば、世に福禄寿を保たんと欲するものは、その分限に足ることを知りて、その慎みに足ることを知るべからず。慎みに足ることなければ、福禄寿をあたへて天より足らしめたまふこと、秤の物を計るがごとし。世人はただ金銀をこの上なきものとおもへども、金銀は天下の財宝なるがゆゑに、我が手にこれを費すとも、なほ人の手にありて、天下の中に亡ぶることなし。飲食は然らず。たとひ一飲一菜といへども、余計に食する時は、たちまち屎尿となりて、二たび世に出づることなし。是れ飲食の何物よりも大切なる所以にして、飲食を濫りにするものは、濫りにするだけ福を損し禄を損し寿を損し、飲食を慎むものは慎むだけ福を増し禄を増し寿を増す所以なり。恐るべし慎むべし。