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水野南北 著 「修身実験録 一名・出世の直道」を読む その15 修身実験録&意訳

博学多識にして心気萬人に勝れたるを豪傑とはいへど、いまだ徳者とはいふべからず。されば常人にして豪傑とよばるることは、なし得べからざれども、徳者とはならるるものなり。夫れ常人学者を論ぜず、行住坐臥他念なく慎みを専らとし、天地を書籍とし、日月を証明として、われの徳を天地に積み蓄(たくは)ふるを、誠の徳者とはいふなり。およそ師たるものは、この道徳を本として、深く道に詣(いた)るべし。然らざれば決して天地の理を究むこと能はず。己れ天地の理を究めずして、学にほこりて世の人を驚かし、弁にまかせて他の説をうち、人の己を用ひるに随(したが)ひて横柄となり高慢となりて、制止することを知らざるからに、終には天賦の徳を損し、弊衣蓬頭(へいいほうとう)にして恥る心なし。みづからは以て君子を気取れども、世人は呼びて乱心となすものおほし。浅間しき事なり。仰ぎ願わくば窮してもその徳を天地にのばして、老いてはその功を収めたきことなり。

 

世人の子孫に財宝を残して永久さかえしめんと欲するは、子孫のために大いなる仇なり。いかにとなれば、その子孫たるもの財宝に安んじて世の中はいつもかくのごときものと思ひ、業をつとめず徳を積まず、安楽に耽りて月日を送るゆゑに、終には産をおとし家をやぶるにいたる。世の中を見わたすに、比々みな然らざるはなし。されば人の親たるものは正直を主とし、慎みを専らとし、常々これを子孫に見ならはしめ、費えをはぶき廃るるものを扶けて、年々この徳を積み蓄へおくときは、これこそ萬代不易の家督にして、世の謂ゆる無尽蔵なれ。これを先祖の功徳、父母の慈愛とはいふぞかし。