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水野南北 著 「修身実験録 一名・出世の直道」を読む その13 修身実験録&意訳

夫れ相は誠を以て本とす。されば一心誠ならざるときは、善き相も悪きに変ず。一心誠なるときは悪き相も善きに変ず。この故に相は活物なり。若し福相のものことごとく福分ありて、貧相のものことごとく貧賤ならば、死物にして論ずるに足らず。されば貧福は慎みによりて変換すべし。是れ相法の貴ぶべき所以なり。

 

誠の陰徳を知らぬ者は、一粒の五穀地に廃るるを見て、大いに悲しむと雖も、美味あれば一椀の飯も余計に食す。是れ一粒の廃るるを悲しみて一飯の費ゆるを知らざる者なり。この余計の食は、身体に益なきのみならず、却て脾胃を苦しめて病を発す。これを身知らずといふ。

 

萬物を粗末に取扱ふものは、自然とその縁にひかれて道路に苦死す。夫れ草木の類は、火にあひて灰となり、土に帰るを令終といふ。穢れありとて捨つるときは、土に帰ること能はざるが故に、終りを見届くるの徳をうしなふ。されば水にて清め、これを焼て灰となすを以て陰徳とす。それ天は萬物を生じて人に附与す。人これを粗末に用ひる時は、天意にもとり天理にたがふ。これに反してその用をつくし、その終を見とどくる人は、天意にかなひ天理にしたがふがゆゑに、決して道路に苦死するの憂ひなし。もし心をこの辺におくことなく、恣ままに振廻ふものは、美食の臣を先鋒にたて、貧窮の勢を搦手に備へ、遊女遊男を左右に随へつつ鬨(とき)をつくりて身命にせめ向ひ、目ちかく寄せ来るにおよびては不意の病難災難を発してたちまち命城にをどり入り、本心の君をいけどりて、或は短命の御世となし、或は貧窮の国家となして身には藁薦(わらこも)の甲冑を着かざり、体には襤褸(ぼろ)の錦をまとひ、杖をつき市に立ちて、先祖の家をあらはすにいたる。恐るべし慎むべし。