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水野南北 著 「修身実験録 一名・出世の直道」を読む その11 修身実験録&意訳

無用火(むだび)をたき、或は火を粗末にして踏み消し、また燈火の明るきを好みて、みだりに油をさすものあり。かくの如き人は生涯出世することなく、諸事調はざることをつかさどる。夫れ火は物を熟する要物なり。一日これを用ひざれば人命を養ひがたし。それをみだりに費し粗末にとり扱ふがゆゑに、諸事調はず福利塾せざるは誠の理の当然とす。

 

富貴貧賤のわかちなく、紙をみだりに使ひ費すものは、富貴者は貧賤となり、貧賤者はますます苦境にしづむべし。古人いはく紙水一斗を損すと。看よわづか一枚なりといへども、水一斗を損せざれば清らかなる白紙となるを得ざることを。但し屑紙は水を費やすこと少なければ、鼻紙として雪隠におとすも妨なし。若し白紙を鼻紙に用ひんには、これを雪隠におとさず、籠にあつめ置きて二たび世用に供ふべし。これもまた本を重んずるの道なり。

 

諸道具の類を、新しき内は大切に用ひれども、古くなるに随ひて粗末に取り扱ふものあり。是れ実なき人なり。それ日用の諸道具は、日々これを使ふこと奴僕の如し。壮年の間はこれを大切に用ひて、老衰にいたりて捨つるは豈実なき人にあらずや。依て諸道具の古びて用にたたざるに至るものは、土器は土にうづめ、木物は火にて焼きてこれを土に帰すべし。是れ君が臣の終りを見とどくる道にして、主たるものの慈悲なり。すべて己が心の有様は、その用ひる物の取り扱ひによりて誠偽おのづから現はるるものなり。これみな天然の心相なり。